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Vol.1 イングリッシュカントリーにタイムスリップ!?

絵:エンドウシノブ 

作:YU

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ゆうこさんは、じゅんさんと結婚して3年目。

かわいいフレンチブルドッグのふうちゃんと一緒にマンションに住んでいます。

 

「そろそろおうちを建てようか?」

ついにゆうこさんは念願のマイホームが建てられることになりました。

 

ゆうこさんは、いろいろなインテリアを検索しながら

このソファ可愛いなぁ〜。こんなカーテン欲しいなぁ〜。この家具がいいなぁ〜。

毎日ワクワクが止まりません。最近、頭の中はこのことでいっぱいです。

 

じゅんさんに写真を見せながらどれがいい?と尋ねると

 

「ゆうこさんの好きにしたらいいよ」決まってじゅんさんはそう言います。

ゆうこさんは、毎日ふうちゃんのお散歩に出かけます。

 

この家かわいいなぁ。こんな窓をつけたいなぁ。お庭にこのお花を植えたいなぁ」

他のおうちを見ながら、ゆうこさんの夢は、ますます膨らんでいきます。

 

 「どうしよう。これもあれも入れたいけど、組み合わせは変じゃないかな?」

はっきり決められないゆうこさんは、やりたいことがいっぱいあり過ぎて、どんどん悩んでしまいます。

 

 

ある日のこと、いつものようにふうちゃんのお散歩に出かけて、いろいろなおうちを見ていたら

 

ワンワーン

 

「ふうちゃん!どこ行くのー?」

ふうちゃんが急に走り出しました。

見たことのない素敵なアンティーク風のドアの前でふうちゃんは止まりました。

 

ワンワン!ワンワン!

 

ふうちゃんはドアに向かってずっと吠え続けています。

 

どうしたの?中に入りたいの?」

笑顔で答えるふうちゃん。

 

「でも人のおうちだしなぁ・・」

戸惑いながらも、ゆうこさんはそっとドアをノックすることにしました。

 

コンコンコン

 

「すみませ〜ん。どなたかいらっしゃいますか〜?」

おそるおそるドアを開けてみました。

 

中は薄暗く、なが〜い廊下が続き、はっきりと中の様子が見えません。

 

バタン!

 

大きな音でドアが閉まりました。すると!奥から手をふって近付いてくる人影が・・・

 

「ゆうこちゃーーーーーん!!!!」

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「え!?どうして私の名前を??」

突然ゆうこさんたちの目の前に現れた、不思議なメガネをかけたおばあさん。

満面の笑みでゆうこさんを嬉しそうに見つめています。

 

「嬉しい!!また会えたわぁ!」

ゆうこさんは戸惑いながらも、どこかで見覚えのある顔だなぁ?と考えます。

 

「あーーーーー!!!くみおばあちゃん!!!!」

そう!メガネのおばあさんは、ゆうこさんが小さい時に亡くなったくみおばあさんだったのです!

ゆうこさんは、あまりくみおばあさんの記憶がありません。

しかしくみおばあさんは、ゆうこさんをとても可愛がっていたのです。

 

実家には、くみおばあさんと一緒に撮った写真がたくさん飾られていました。

写真に映るくみおばあさんは、とてもオシャレで素敵な姿ばかり。

ゆうこさんは、くみおばあさんと一緒に過ごしたかったといつも思っていたので、会えて大喜び!!

 

「ゆうこちゃん!こっちにおいで!」

ゆうこさんの手を引っ張って、奥の部屋へと案内します。

「このおうち見てみてー!」

くみおばあさんが開けた扉の奥に広がるお部屋を見て、ゆうこさんはビックリ!!

そこにはゆうこさんが今まで見たことのないお城を思わせるようなお部屋が広がっていたのです。

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「うわー!なにここ!素敵〜!」

 

「ここはイングリッシュカントリースタイルのおうちよ。ゆうこちゃんこっちきて!」

くみおばあさんはお部屋の中を案内し始めました。

 

ゆうこさんはふと思い出したのです。実はくみおばあさんは亡くなる前、インテリアデザイナーだったのです。

くみおばあさんはおもむろに語りかけるように話を始めました。

 

「イングリッシュカントリースタイルは、カントリーサイドに建てられた貴族のおうちのインテリアのことよ。だからお庭が隣接されていることが多いわね!」

「へぇ〜!なるほど〜!」

ゆうこさんはお部屋からお庭を見渡しました。

 

なんと!ゆうこさんは19世紀のイギリスにタイムスリップしていたのです!

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くみおばあさんはさらに、イングリッシュカントリースタイルについて話を続けます。

 

「中世時代に貴族が持っている別荘のことね!1558年に即位したエリザベス1世は、夏の間は涼しい避暑地へ行ったり、田舎で滞在したりすることを好んでいたようね。」

 

「へぇ〜!そうなんだ!」

 

「家臣たちは彼女の恩恵を得ようと競うようにして邸宅を飾り立てたと言われているのよ。田園地帯大邸宅の建築と改造がたくさん行われるようになったわけね。つまり貴族の避暑地のおうちなのね。だからおうちが立派なのよ。使用人もいて、高貴であり、とても厳かなイメージのおうちなのよね。」

 

くみおばあさんは話を続けながら、隣の部屋の扉を開けました。

くみおばあさんは、部屋全体を見回して、首をかしげます。

「ん?なんかこの部屋おかしいわね?よし!私に任せて〜!」

 

パチン!

 

くみおばあさんが指を鳴らします。

するとお部屋の隅にある小さな扉から、小さなおじさんたちが次々と出てきます。

 

「え〜!なにこれ〜!?」

ゆうこさんは驚きます。

 

まずは壁を変えましょう!イングリッシュカントリースタイルといえば、ストーンカラーと言われる少しくすんだパステル調のイエローやピンク、セイジグリーン、グレーのペイントで壁紙を選ぶといいかもね!よし!アダムくん!壁紙を持ってきて〜!」

 

くみおばあさんは小さなおじさんたちをアダムくんと呼んでいます。

たくさんのアダムくんたちは、くみおばあさんの指示で小さな扉に戻っていき、中でなにやらゴソゴソしています。すると・・

 

ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ・・・

 

アダムくんたちは壁紙を持ってきました。

 

「さぁ始めるわよ〜!」

くみおばあさんの掛け声で、アダムくんたちは、どんどん壁紙を貼っていきます。

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貼り終わった部屋を見てゆうこさんはビックリ!

壁紙を変えることで部屋のイメージがガラッと変わったのです。

「じゃあ次は家具ね!家具はね、伝統的なものを揃えるといいわね!

ゆうこちゃん!ポイントはね、同じ様式のものを揃えることよ!例えば、クィーン様式とかジョージアン様式とかビクトリアン様式とか、同じ様式の家具を揃えるといいわね!」

 

「ヘぇ〜!そうなんだ!同じ様式にすることで部屋の中が統一されたように見えるのね」

 

「それもあるんだけどね。インテリアは基本を学ぶことから始めるのよ!クラシックと言ってもいろいろな様式があるの。今からどの様式にするか決めなきゃね!ここはジョージアン様式で揃えましょう!このテーブルと椅子を合わせていきましょう。さぁアダムくん!家具を持ってきてちょうだい!」

 

ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ・・・

 

アダムくんたちが大きな家具を運んできます。

部屋の中は、みるみる統一されたイングリッシュカントリースタイルに仕上がっていきます。

 

「違う違う!もうちょっと右よ!そうそう!」

くみおばあさんが家具の置く位置を、細かくアダムくんに伝えていきます。

 

「ゆうこちゃん。家具を置く位置はとても重要なのよ。ちゃんとメジャーで測って、置く場所を決めてから家具を揃えることが大切よ!」

 

「なるほど!メジャーできちんと測ることが大切なのね!」

家具が揃った部屋を見渡し、ウンウンとうなずくくみおばあさん。

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「よし!最後の仕上げはアートを飾るわよ!お部屋にアートを飾ると、お部屋の印象が全く違ってくるのよ。そして深みも増すことになるわね!壁を飾る、アートを取り入れることで全体のバランスが整えることができるのよ。だからイングリッシュカントリースタイルだけではなく、必ずお部屋にはアートを取り入れましょう!」

 

くみおばあさんはアダムくんに飾るアートを持ってくるように指示します。

そして最後はくみおばあさんの手で仕上げます。

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「できた〜!これが19世紀の空間をイメージしたイングリッシュカントリースタイルよ!どうかしら?」

 

ゆうこさんは驚きました!最初に見たお部屋が大変身したのです。

 

「そして、もうひとつ忘れてはいけない自然の表現。イングリッシュカントリースタイルの特徴の一つに、モチーフは自然からとったお花や草木、田園を感じるものが多いわね。イングリッシュカントリースタイルにはお庭もとても大切で、イングリッシュガーデンは自然の地形を生かしたお庭を作るとも言われているのよ。」

 くみおばあさんは、さらに話を続けます。

 

「イギリスはね、とても歴史を重んじながらも革新的な国だと思うのよ。そしてインテリアのレベルが、とても高いのよ。でもね、ゆうこちゃん!インテリアで大切なことは ”自分を知ること”なのよ。自分の内側に向かい合うことで、必ず素敵なおうちが誰にでも作れるものよ」

 

「なるほど!自分を知ることが大切なのね。考えてみたら、あんまり自分のことについて向き合ったことはないかも。」

 

「そうそう!まずは自分が何に惹かれて、何に心地よさを感じるか考えてリストアップしてみたらいいかもね!さぁゆうこちゃん!次はその扉を自分で開いてみて〜!」

ガチャ! バン!

 

そこはいつものお散歩コースではありませんか。

後ろを振り返ると、さっき出てきたドアはどこにもありません。

 

「あれ〜?今のはなんだったんだろう?」

ゆうこさんは、まるで夢でもみていたかのような感覚になりました。

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「おかしいな〜?」

不思議な気持ちでゆうこさんは、ふうちゃんとおうちに帰っていきました。

 

じゅんさんと夕食を食べながら、ゆうこさんは今日あった出来事をじゅんさんに話しました。

 

「夢でもみてたんじゃないの?」

じゅんさんは笑いながら聞いてくれました。

 

その夜、ゆうこさんは紙とペンを用意して ”自分について” 考えることにしました。

 

「自分らしさとは・・・?」

出来上がった紙を見て、何だか少しだけ自分のことが分かった気がしたゆうこさんなのでした。

 

「くみおばあちゃんとまた会いたいな〜」

楽しかったくみおばあさんとの時間を思い出しながら、ゆうこさんは眠りにつきました。

 

 

 おしまい

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