Vol.2 コースタルスタイルにテレポーテーション!?
絵:エンドウシノブ
作:YU

ゆうこさんは、じゅんさんと結婚して3年目。
かわいいフレンチブルドッグのふうちゃんと一緒にマンションに住んでいます。
ついに念願のマイホームを建てることになったゆうこさん。毎日どんなおうちにするか考えて、そのことで頭がいっぱいです。
今日もゆうこさんは色々なおうちを想像しながら
「こんなインテリア良いなー」
「こんな家に住みたいなー」
「このソファが欲しいなー」
妄想が止まらず、ワクワクしています。
「さぁふうちゃん!お散歩の時間よー!」
ゆうこさんはふうちゃんといつものお散歩に出かけます。
公園をお散歩していたら、ふうちゃんが突然立ち止まり
クンクン クンクン
何やら匂いをかいでいます。ゆうこさんも気になって立ち止まってみると
「あれ?海の香りがする!近くに海なんてないのに不思議だわ」
クンクン クンクン
ふうちゃんと一緒に匂いのする方に向かっていくと、真っ白なドアの前までたどり着きました。
耳を澄ましてみると、なんとドアの向こうから波の音が聞こえてきます。

「どうする?ふうちゃん。中に入ってみる?」
笑顔を見せて答えるふうちゃん。ゆうこさんは恐る恐るドアをノックしてみます。
コンコンコン
「すみませ〜ん。どなたかいらっしゃいますか〜?」
中に入ってみてゆうこさんは驚きました!
なんとそこは、窓一面にビーチが広がっています。ゆうこさんの住んでいる街の景色とは全く違う世界にいたのです。
「わぁ〜!見てふうちゃん!海が見えるよ〜!」
ふうちゃんは大喜びで砂浜を走り回ります。
ゆうこさんはとても不思議でした。なぜならゆうこさんの住む街には、海がないからです。
「私の街は住宅街なのに、どうしてここには海が広がっているのかしら?」
ゆうこさんが不思議に思っていると、砂浜の向こうから声が聞こえてきます。
「ゆうこちゃ〜ん!!!!」
するとくみおばあさんが麦わら帽子をかぶって、手を振りながら走って近づいてきます。
「くみおばあちゃん!会いたかったわー!」
ゆうこさんが小さい時に亡くなったくみおばあさんは、生前インテリアデザイナーをしていました。
おうちを建てることになって悩んでいるゆうこさんの前に、こうして不思議と現れるようになったのです。
なんと今回はアメリカ西海岸にテレポーテーションしていたのです。
ゆうこさんは再びくみおばあさんに会えることができて、とても嬉しかったのです。

「ゆうこちゃん、海はお好き?波の音は私たちをリラックスさせてくれる効果があるのよ!ビーチで日光浴したり、ただ波の音を聞いているだけで、心が癒されて、気分や体調が良くなったりするわよね!今日はそんな海岸沿いにあるコースタルスタイルのおうちを紹介するわよ!」
そう言ってくみおばあさんは、おうちの中を案内し始めました。
「コースタルスタイルのおうちは、開放感があって、大きな窓を作って自然光を取り入れ、自然と一体感を作ることが特徴ね!」
「本当だー!風も光も入って、とても気持ちが良い空間ね!」
お部屋の中は、光が差し込み外からは、気持ちの良い風が通り向けていきます。
ゆうこさんとふうちゃんは、目を閉じると自然を感じ、とても幸せな気持ちになりました。

「コースタルスタイルに取り入れられるカラーは、白、サンドベージュ、クリームやブルー、カーキなどね!ソファなどで使う生地は、リネンやコットン、天然素材などを使われることが多いわ。小物類では、サンゴや貝殻、海を感じるモノをよく飾られているわね。サーフボードを飾るのも良いわね!」

「へー!なるほど!これを見ているだけで海岸のイメージが湧くわね!」
そう言いながら、ゆうこさんは何やら困った顔をして、考え出しました。
ゆうこさんの表情を見て、くみおばあさんが尋ねます。
「どうしたの?ゆうこちゃん。何か悩んでいるの?」
「う〜ん。ここは海岸沿いにあるおうちだから、とても開放感があって海や自然を感じられるコースタルスタイルのおうちになっているけど、私の住んでいる街でも、こんな素敵なコースタルスタイルのおうちが作れるのかしら?」
するとくみおばあさんは得意げな顔をして
「ゆうこちゃん!ついてきて!!」
くみおばあさんはゆうこさんの手を取り、隣のお部屋へ連れて行きます。
入ったそのお部屋は何もない、殺風景なお部屋でした。
窓はゆうこさんのおうちにあるような、普通のサイズ。窓から見える景色も、いつもゆうこさんが見ているような住宅街。
「ゆうこちゃん。このお部屋をさっきのようなコースタルスタイル のお部屋に作れるかしら?」
「えー!海もないし、外は住宅街だし・・・このお部屋をコースタルスタイルにするのは難しくないかしら?」
そう答えると、くみおばあさんはニヤリと笑い、指を鳴らします。
パチン!
すると小さなおじさんアダムくんが、小さなドアから行進して出てきます。
「わぁー!アダムくんだ!」
ゆうこさんは何時ぞや見たことのあるアダムくんに喜びます。
「さぁ!アダムくん!まずは壁と床を変えるわよ。」
くみおばあさんはアダムくんに指示します。
「圧迫感がない空間を作るために天井を白にしましょう!白は光を反射させる作用もあるのよ。一面を薄いブルーにするのも海を感じられるわね!そして床は自然を表現するために、光沢のない無垢の床材にしましょう!」
アダムくんたちは、小さなドアに戻り、壁を貼り替える人、床を貼り直す人に分かれて作業を始めます。
ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ

「すごい!壁と床を替えるだけで、こんなにも明るい空間になるのね!」
ゆうこさんはお部屋を見て驚きました!
「ウンウン!良い感じね!じゃあ次は家具よ!かぐは自然にマッチするような無骨なものを選んでも良いし、女性らしい柔らかさを出したければ、曲線を描いたような家具でも大丈夫!」
ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ
アダムくんたちが大きな家具を運んできます。
お部屋の中は、みるみるうちにコースタルスタイルのお部屋に仕上がっていきます。

「コースタルスタイルは、カジュアルさが感じられる家具を使うと良いわね!濡れた水着で座っても大丈夫なイメージかもね!だからと言って、濡れても良い素材を使うのではないのよ。優雅さを出したければ、ゆったりとした大きな家具や伝統的なスタイルの家具でも大丈夫!素材は天然を選ぶと良いのよ!」
家具の選び方をくみおばあさんが教えてくれます。
「なるほど〜!壁の色や家具を工夫することで、どんなスタイルでも表現することは可能なのね!インテリアっておもしろい!」
ゆうこさんは、インテリアのおもしろさにどんどんハマっていきます。
「ここは大きな窓がないから、カーテンを窓より大きくし、壁一面が窓のように取り付けることで、室外が広がっているように感じることもできるの」
くみおばあさんは話を続けます。
「ゆうこちゃん。お部屋はね、誰が使うの?どんな時に使うの?ってことを考えながら家具の位置を決めていくのよ。そしてもちろん!ちゃんとメジャーで測って、置く位置を決めてから家具のサイズが分かってから揃えることが大切よ!」
「なるほど!その部屋が何をする部屋なのかを知ることが大切なのね!」
そしてアダムくんが、くみおばあさんにアートを渡します。
最後はくみおばあさんの手でコースタルスタイルを仕上げていきます。
「最後はもちろん!アートを飾るわよ。アートの大切さはイングリッシュカントリースタイルの時に伝えたわよね!今回は海岸をイメージさせるために、海と砂浜の絵を飾るわね!」

全て飾り終えたお部屋全体を見渡して、くみおばあさんはとても満足しています。
「できたー!これがコースタルスタイルのお部屋よ!海岸沿いじゃなくても、ちゃんとコースタルスタイルが表現できているでしょ?どうかしら?」
ゆうこさんは出来上がったお部屋を見て驚きました!住宅街の中でも、立派なコースタルスタイルが出来上がっていたのです。

「そしてもう一つ!海を表現するための小物を飾りましょう!小物はお部屋のイメージを増すために、とても大切なアイテムなのよ!」
くみおばあさんは、インテリアで大切なことを色々と教えてくれます。
「ゆうこさん!おうちの中はね、唯一無二のあなたの空間なのよ。家族と一緒に暮らしているなら、家族の空間ね!だからこうでなきゃいけない!ということは何もないのよ。自分が何を好きなのか知ることが大切なのよ。一度”自分がこだわっていること”について考えてみると良いかもね!」
ゆうこさんは、その言葉を聞いて
「自分のこだわり?そんなこと考えたこともなかったわ!何かあるかしら?」
くみおばあさんは笑いながら答えます。
「こだわりがないってことがこだわりだったりすることもあるわよ!でもね、好きなモノ、心地良いモノは人それぞれあるものよ」
「なるほど!一度考えてみるわ!」
ゆうこさんは、おうちに帰って考えることが楽しみになりました。
「さぁ!ゆうこちゃん!次は、あなた自身を知るドアを自分で開いてみてねー!」

ガチャ! バン!
ドアが閉まるといつものお散歩コースに帰ってきました。
後ろを振り返ると、さっき出てきたドアはどこにもありません。波の音も、海の香りもしませんでした。

「あれ〜?何が起きたんだろう?」
まるで夢でも見ていたかのような気分です。不思議な感覚になりながら、ゆうこさんはふうちゃんとおうちに帰っていきました。
じゅんさんと夕食を食べながら、ゆうこさんは今日起きた不思議な出来事を話しました。
「また夢でも見ていたんじゃない?」
じゅんさんはそう言って笑いました。
その夜ゆうこさんは、紙とペンを用意して”自分のこだわり”について書いてみました。
「私ってこんなことにこだわっていたのね!」
出来上がった紙を見て、まだ知らない自分が少し見えた気がしたゆうこさんなのでした。
くみおばあさんと一緒に過ごした時間を思い出しながら、とても心地良い気分でゆうこさんは眠りにつきましたとさ。
おしまい