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Vol.3 インダストリアルスタイルにタイムスリップ!?

絵:エンドウシノブ 

作:YU

ゆうこさんは、じゅんさんと結婚して3年目。

かわいいフレンチブルドッグのふうちゃんと一緒にマンションに住んでいます。

 

ついに念願のマイホームを建てることになったゆうこさん。毎日どんなおうちにするか考えて、そのことで頭がいっぱいです。

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今日はゆうこさんがずっと楽しみにしていた住宅展示場を見に行く日です。

じゅんさんとふうちゃんもお出かけの準備をして、一緒に出かけます。

「わぁ!かわいいおうちがいっぱい!」

たくさんのおうちが並ぶ住宅展示場に到着。

ゆうこさんは心がワクワクしています。

 

お城のようなおうち、コンクリート打ちっぱなしのおうち、おとぎ話に出てきそうなおうち。

様々なおうちが本当の住宅のように並んでいます。

ふうちゃんも嬉しくておうちの周りを走り回っています。

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「まずはこのお家から見てみようか?」

じゅんさんが指さしたおうちは、黒の扉とレンガで出来たオシャレな外観のおうちでした。

 

「なんて素敵なおうちなの!中がどうなっているのか見るのが楽しみだわ!」

ゆうこさんは、おうちの中に入る前から、素敵なお部屋を想像して楽しみで仕方ありません。

思わずスキップしてしまいます。

 

「あ!車の中に忘れ物をしてしまったよ。ゆうこちゃん!先に中に入っていて」

 

「うん!わかったー!」

じゅんさんにそう言われたゆうこさんとふうちゃんは、先におうちに入ることにしました。

 

ドアの前に近付いてみると、何やら中がとても騒がしいです。

 

ガガガガガー ゴゴゴゴゴー

 

なんだか工事現場のような音がします。

「一体何かしら?ふうちゃん入ってみよう!」

 

コンコンコン

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「すみませーん!おうちの中を見せてくださーい!」

 ゆうこさんはドアを開けてびっくりしました。中はなんと工場のようなところだったのです!

 

「エェー!おうちじゃないの?ここはどこかしら?」

 ゆうこさんがびっくりしてパニックになっていると、聞き覚えのある声で誰かが呼んでいます。

 

「ゆうこちゃーん!ここ、ここー!」

 機械の音で聞こえにくいですが、ゆうこさんを呼びながら誰かが近づいてきます。

 

「くみおばあちゃん!!」

工事用のヘルメットをかぶり、オシャレメガネをかけたゆうこさんのおばあさん、くみおばあさんなのでした。

くみおばあさんは、ゆうこさんが小さい頃に亡くなっていて、生前はインテリアデザイナーをしていたのです。

おうちを建てることになって、どんなおうちにしようか悩んでいるゆうこさんの前に、こうして不思議と現れるようになったのです。

 

「くみおばあちゃん。なぜ工場にいるの?しかもなぜ私たち白黒!?」

 

「ここはね、19世紀半ばの第二次産業革命があったアメリカよ。この頃たくさんの工場が建てられたの!次はこっちよ」

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くみおばあさんはゆうこさんの手を取り、次のお部屋へと案内しました。

 

「ここはね、1970年代のニューヨーク・ソーホー地区よ。第二次大戦後、空き家が多くなったこの地域に、天井が高く、窓が大きいロフトスペースが、芸術家やデザイナーなどにアトリエとして人気が出始めたの」

 

「へぇー!そうなんだ!」

 

「こういう空間をインダストリアルスタイルと言うのよ。インダストリアルスタイルとは、”工業や産業の”という意味ね。古いものや工業的なクールな空間がおしゃれで個性的と人気のスタイルよ」

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「なるほど!本当に工業の空間から住まいに変わっていったのね。でも実際に住むところをこんな空間にするには、どうしたらいいのかしら?」

それを聞いたくみおばあさんは、ニヤリと微笑みます。そしてゆうこさんをさらに奥のお部屋へと案内します。

「では、今日はインダストリアルスタイルのお部屋を作っていくわよ」

 

パチン!

 

くみおばあさんが指を鳴らすと、小さなドアから、小さなおじさんアダムくんが出てきます。今日のアダムくんはヘルメットをかぶり作業着姿です。手にはハンマーを持っています。

 

「ゆうこさん。インダストリアルスタイルに大切な1つは、広くて開放的な空間よ。まずはオープンスペースを作るために、この壁と天井を壊して、2つの部屋を1つにするわね」

くみおばあさんの合図で、アダムくんたちはハンマーで壁と天井を叩き、壊し始めました。

 

ゴンゴンゴンゴン ドンドンドンドン

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壁がなくなり、広い1つのお部屋に大変身!天井は高くなり、配管が丸見えになりました。

 

「配管が丸見えになっているけど、これはどうするの?」

 ゆうこさんは尋ねます。

 

「配管はね、そのまま残すことでより工業的な雰囲気が出るのよ。だからそのまま残しておくのよ。次にアイテムを紹介するわね」

「インダストリアルスタイルといえばアイアンね!家具に取り入れたり、窓やドアに使うと良いわね。色はクールな色で、グレーや白、黒、木製やレンガを使うと雰囲気が出るわね」

 

「へー!なんだか男性的なイメージね」

ゆうこさんが感じたイメージを伝えます。

 

「そうね!もちろんキーカラーに鮮やかな色を使っても良いのよ。あまり物をたくさん置かないことも大切ね。家具も頑丈で、ムダのないすっきりした物を選ぶと良いわ。レザーのものやヴィンテージ感のある家具がおすすめよ」

 ゆうこさんは、くみおばあさんに質問します。

 

「照明はどんなものが合うかしら?カーテンは?」

くみおばあさんは、ゆうこさんの質問に嬉しそうに答えます。

 

「ゆうこちゃん良い質問ね!インダストリアルスタイルの照明は、やっぱり工業的なイメージを感じるものが良いのよ。例えば、電球そのものが見えるようなデザインだとか、本体やランプシェード部分が鉄、銅、ステンのような金属を思わす物を選ぶと良いわね」

 

「なるほど〜!」

くみおばあさんはさらに話を続けます。

 

「カーテンはね、付けなくても大丈夫なんだけど、もし付けるのであれば機能性を考えた、ブラインドやロールスクリーンなど、メカニズムの付いたものを取り入れると良いわね!」

 

「そうなんだ!アイテムによってイメージが変わるのね」

ゆうこさんはインテリアについて、知れば知るほど楽しくなってきているのです。

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そしてくみおばあさんは、インテリアの楽しみ方をさらに教えてくれました。

 

「インテリアを楽しむポイントの1つは壁よ!一面、大きな壁を作ることによって、アートを飾ったり、家具を飾ったり出来るの。一枚のキャンバスを好きなように表現することが出来るってことね。これはどのスタイルでも大切なことよ」

 ゆうこさんは、少し困った顔をして尋ねました。

 

「キャンバスか〜。広い壁があると、どのように飾ったら良いか悩んでしまいそうだわ」

 心配するゆうこさんに、くみおばあさんがアドバイスをします。

 

「アートならば、大きなものをドン!と飾ったり、小さいものを集めて、バランスを見ながら飾ったりするのよ。家具だと左右対象シンメトリーに飾ると安定して良いわね。左右の重量感を考えて飾るってことなの。もし難しいなら同じものを2つ揃えることで、左右対象が作りやすいわよ」

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くみおばあさんは話を終えると指を鳴らしました。

 

パチン!

 

「さあ!最後の仕上げにアートを飾るわね。アダムくん!あのアートを持ってきてちょうだい!」

 

アダムくんが持ってきた大きなアートを、くみおばあさんの手で飾り終えると、お部屋を見渡し、満足そうな笑みを浮かべるくみおばあさん。

ゆうこさんとふうちゃんも、出来上がったお部屋を見て笑顔が溢れました。

 

「とても素敵ね!インダストリアルスタイルってこういうお部屋のことをいうのね!」

 

工業的な雰囲気がありながら、温かみもある住みやすそうなお部屋が出来上がりました。

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「どうかしら?ゆうこさん気に入ってくれた?こうやってたくさんのインテリアスタイルを知ることで、自分にとって心地良い空間、好きなテイストが見つかるはずよ。そしてね、心地良い空間を作るために大切なことは、”どんな生活スタイルを送っているか”を明確にすることよ」

 

「生活スタイル?」

 

「そう。例えばおうちにいるときは、ほとんどの時間をリビングで過ごしているのなら、こだわって座り心地の良いソファを探してみる!とかね。どこの部分を重要視するかは、生活スタイルを明確にすることで見えてくるわ。一人暮らしであれば自分の生活スタイルを一度見つめてみること。家族がいるならみんなの生活スタイルを書き出してみたら良いわね。さあ!ゆうこちゃん!次はあのドアを自分で開けてみて!」

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ガチャ! バン!

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ドアを開けると、向こうから優しい笑顔のじゅんさんが手を振りながら、こっちに向かってきます。

出てきたドアを開けても、さっきのお部屋はどこにもありません。

 

「お待たせ〜!ちょっと道に迷っちゃってね。あれ?ゆうこちゃんどうしたの?」

キョトンとしているゆうこさんに、心配してじゅんさんが声をかけました。

 

そして長いようで短かった、くみおばあさんとの不思議な出来事を事細かにじゅんさんに話しました。

 

「きっとくみおばあちゃんは、いつもゆうこさんを見守ってくれているんだね。悩んでいるゆうこちゃんをみて、きっと答えを導いてくれているんじゃないかな?」

じゅんさんの言葉を聞いて、ゆうこさんは深く考え、感謝の気持ちが溢れたのでした。

 

おうちに帰ってゆうこさんは早速、じゅんさんと自分の1週間のタイムスケジュールを書いてみました。

書き終えたゆうこさんは、じゅんさんとふうちゃんと過ごす時間が、とても大切なことに改めて気づいたのでした。

 

おしまい

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